背景
福島県では、原子力災害対策特別措置法に基づいて、漁業および農業生産物に対する出荷制限が続いています(参考資料1)。 摂取制限については、南相馬市、いわき市、棚倉町で野生キノコについての定めがあり(平成26年12月28日現在)、それ以外の自治体でも漁業・農業生産物の自家消費を控えるように呼びかけているところがあります(参考資料2)。 一方、地元では、古くから親しまれてきた地域文化の一部にもなっている食物を、自ら選んで口にしたいと願う人の声も聞かれるようになっています。これまでの地域の方々との話し合いでは、死んでも良いと思って食べたという例がある一方で、健康影響は気にしないことにして、測定もしないまま、 リスクを全く確認せずに食べている例がありました。食べたいと思っても、周囲に気を使うという意見も聞かれました。 伊達市の事業として霊山町石田地区で2度開催された勉強会「放射能を知ろう食品の安全性」では、現在の出荷制限値は厳しく守りつつ、新たに「摂取制限値」(摂取の可否を判断する目安となる数値)を導入し、 自主的な安全確保・管理に基づいた、自家消費による地産地消に門戸を開くことを国に提案すべきだとの意見に賛同が得られました。シンポジウムでの提案
議論がはじまった伊達市で、放射性物質からの安全を確保したうえで、古来からある地域特産食品への「摂取制限値」を導入することを提案する、地域シンポジウムを開催します。 具体的には、世界基準値であるCodexを援用して、1,000Bq/kg(子どもは100Bq/kg)を摂取量の制限とすることの妥当性を議論します。 「摂取制限値」の導入を提唱するにあたっては、放射線リスクの大きさを把握する必要があります。このために、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR) も採用を検討している、損失余命(Loss of Life Expectancy)の考え方を参照します。参加者は、伊達市霊山町、田村市、いわき市、川俣町、川内村のそれぞれ地域の食文化を守ってきた皆さん、 地元の人の健康管理に携わる医師、放射線防護について多くの地元民の相談を受けてきた有識者、および国際的な知見を提示する立場としてUNSCEARの専門家です。これに会場の参加者も交えて、 地元の人びとの気持ちをくみながら食品の安全を確保する方法について、議論します。
なお、このシンポジウムは東京電力の原子力安全改革を監視する原子力改革監視委員会副委員長バーバラ・ジャッジ氏の協力により実現したものです。参加する専門家の渡航費・交通費は、 原子力改革監視委員会の事務局である東京電力が福島復興およびリスクコミュニケーションの一環として負担しています。 ただし、企画内容において東京電力からの意見は反映されていないことを明言します。 自家消費の制限は表には出にくい経済問題にもなっていることから、自家消費の制限に対する東京電力による補償のあり方についても、率直に意見を交換します。
日時
登壇者
- 慈恵医大 浦島充佳
- 相馬病院 越智小枝
- 博多歯科クリニック 博多美保子
- 霊山町、川俣町、川内村、いわき市からの参加者
- ポーランド国立原子研究センター ルードヴィーク・ドブジンスキ
- 地域メディエーター 半谷輝己
浦島充佳(うらしま みつよし)
越智小枝(おち さえ)
1993年桜蔭高校卒、1999年東京医科歯科大学医学部卒業。国保旭中央病院などの研修を終え東京医科歯科大学膠原病・リウマチ内科に入局。東京下町の都立墨東病院での臨床経験を通じて公衆衛生に興味を持ち、 2011年10月よりインペリアルカレッジ・ロンドン公衆衛生大学院に進学。留学決定直後に東京で東日本大震災を経験したことから災害公衆衛生に興味を持ち、 相馬市の仮設健診などの活動を手伝いつつ世界保健機関(WHO)・英国のPublic Health Englandで研修を積んだ後、2013年11月より相馬中央病院勤務。剣道6段。JBプレスにコラムを連載。
博多美保子(はかた みほこ)
福島県滝根町の開業医として40数年、地域医療に携わる。また、詩吟を通して日本の伝統文化を弟子と共に学ぶ事30年。川内村の「琵琶仙人」樋口主水翁に師事、先生亡き後も福島県内で演奏活動を行い、先生の演奏家として人間としてのすばらしさを人々に伝え続けている。
ルードヴィーク・ドブジンスキ
原子力を専門に研究している物理学者。ワルシャワ大学で固体物理学・原子核物理学を学んだ後、ポーランドのシフィエルクにある国立原子研究センターに勤務し、 1981年に原子核法研究所の副所長となる。1983年にはビャウィストク大学に移り固体物理学研究所を設立し所長を務めたほか、米国、イタリア、 フランスの機関でも研究を行う。1997年にポーランド国立原子研究センターに戻って教育・訓練部を設立し、 核物質に関する知識を社会に広めるための高校生を対象とした教育や、放射線防護や原子エネルギーの応用に関する教育を実施してきた。 また、2001年から10 年以上にわたり、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)のメンバーをポーランドの代表として務めている。
半谷輝己(はんがい てるみ)
塾経営を中心に、20年以上にわたり地域と密着しながら生徒の業や生活の支援を行ってきた。医学部や上位進学高を志望する生徒ばかりではなく、 不登校や発達障碍の生徒たちをも積極的に支援している。平成24年度からは伊達市の放射能健康相談員として、 市の幼稚園・保育園・小学校・中学校を中心に200回の講話と130回を超える窓口相談(避難勧奨区域の家庭訪問)を実施している。 平成25年度より、福島県保健福祉部子育て支援課のふくしま保育元気アップ緊急支援事業の派遣講師として、福島県内の600カ所におよぶ保育園を支援している。 日本大学生産工学部工業化学科卒・同大学院工学修士。協同乳業(名糖)研究所を経て有限会社BENTON代表取締役。福島県双葉町生まれ、 現在は福島県田村市に在住。半井紅太郎と言う筆名で「ベントン先生のチョコボール」を発表している。