出荷制限値100Bq/kgは厳守しつつ地元民の目安としての摂取制限値の検討へ

6.地域シンポジウムの目的と目的達成のためのコーディネート

ⅰ)目的

東電福島第一原発事故以降、福島県の中山間地域の人々は、多くの放射線の知識を否応なしに学び続け、積極的に測定をする方もいた。国や県や市の情報が本当に正しいのかどうか判断できないまま仕方なく状況を呑み込み続け、少しでも被ばくを避ける放射線防護を心がけ工夫を凝らし被災地での生活を維持している。
BqやSvを単位とする数値では、相場観を得られていなかったのである。このような中、著者が紹介した損失余命の考え方は、困惑していた人々が自ら判断し主体的に行動できるツールとして受け入れた。リスクの大きさを考えることで、事故後、その魅力に負けてタケノコやイノハナを食べた方が、多量に被ばくしていたのではないかと思い込んでおられた方や、もう食べることはできないと諦めていた方たちから、バランスを考え自分たちで判断する放射線防護の実践を訴える声が多くなっていた。
けれども、リスクが相対的に小さいからとして年間で食するBqを考えて少量の山菜を食べる行為に対しては、子どもの安全を一番に考えるお母さんの気持ちや、自主避難されている息子たちを考えると、それを声高に主張する気持ちにはなれず、意見や思いが混沌としていた。お互いを気遣う文化では、この問題について意見を交換することも困難であった。しかし現場での課題を解決するにはコミュニケーションしかない。率直に意見を交換して生活を自分たちのものとするために、出荷制限値100Bq/kgは厳守しつつ、地元民の目安としての摂取制限値のあり方を討議する場を持つこととした。
一方、地域では放射線リスクを気にせずに放射性セシウムが高濃度と思われる野生のキノコを測定もせず無防備に食べている人々もおられるので、それを抑制する効果も狙った。あくまでも、出荷制限値は厳しく守りつつ、摂取制限値がどうあるべきかを議論するものである。
以下、筆者が事前に問いかけた情報である。
【前提の問い】
そもそも出荷制限と摂取制限は何が違うのでしょうか。
【法的な根拠】
いずれも原子力災害対策特別措置法に基づき原子力災害対策本部長の指示により行われます。
【出荷制限】
販売に関する制限です。食品衛生法により規制されます。
・基準値を超過した品目
・その品目で基準値を超えることが地域的な広がりを持つ場合に設定されます。
【摂取制限】
個人が食べることの制限です。
・基準値を著しく超過した品目
・地域的な広がりを持たなくても設定されます。

ⅱ)開催地

シンポジウム開催地は、企画当初、交通の便が良い福島駅周辺での開催がスポンサー側から要望された。けれども、イノハナやイノシシの摂取制限を議論することから、現場での議論が大切だと考え第一回地方シンポジウムが開催された中山間地域に位置する伊達市霊山町の廃校を活用した施設であるりょうぜん里山がっこうを会場とした。この施設が持つ雰囲気は魅力的であり、それをマスコミの取材を通じて人々に知らせたいと思わせたのである。
しかし、重要なのは自然の豊かさだけではない。りょうぜん里山がっこうの活動は幅広いが、放射線に慎重な方の気持ちに寄り添った地道な活動も行われている。そのような活動に従事している方の思いも伝えたいと願ったのが本音であった。食べるか食べないかは参加者の自由として、無償でイノシシ鍋とイノハナご飯がシンポジウムの前後に準備され、体験したい方にはより楽しめるイベントになるようにしたが、食べたくない方には気分を害するものになってしまったかもしれない。

ⅲ)パネリスト

パネリストは、以下の6名の方とした。
ルードヴィーク・ドブジンスキ(ポーランド国立原子研究センター教育・訓練部長、UNSCEAR へは2001年からポーランド代表として参加)
越智小枝(相馬中央病院内科診療科長)
博多美保子(博多歯科クリニック・院長)
半谷輝己(地域メディエーター)

ビデオ参加
岡敏弘(福井県立大学・教授)
浦島充佳(東京慈恵会医科大学分子疫学研究室・教授
ルードヴィーク・ドブジンスキ 越智小枝 博多美保子 半谷輝己 岡敏弘 浦島充佳
著者は、ドブジンスキ氏へ放射線の専門家として、かつUNSCEARに参加している立場としての発言をお願いした。同氏とは、前日に川内村の放射性物質対策としての測定現場の視察にも同行し、放射線関連と食文化の情報を提供しつつ福島の現状を見て頂いた。
越智氏へは災害公衆衛生も学ばれていることから、地域で診療に従事されている立場としてのお話をお願いした。
博多氏へは、地域を支える歯科医師としてのご意見を中心にお話して頂けるようにお願いした。分かり易い言葉で高齢者向けのお話をお願いした。
岡氏へは、ビデオ参加として損失余命を分かり易く短時間(3分)でご説明して頂けるようにお願いしたが3分間では当然無理があった。
浦島氏もビデオ参加となるが、伊達市に隣接する桑折町の放射線アドバイザーを務めかつ小児科医でもあるため分かり易い説明に長けていることから、短い時間(5分)でお母さん向けのお話をお願いした。
上記登壇者に加え、会場にお越しのみなさんがご発言しやすいように、切っ掛け作りとして指定発言もお願いしておいた。発言内容は、特にお願いせず、登壇者たちの意見を聞いて自由に発言して頂けるようにお願いした。
シンポジウム本番では、自由な発言が出来る様に傍聴席とパネリストを繋ぎ、赤青カードの使用は、参加者の意見の多様性や会場内の意見の変化や流れを参加者がお互いに確認できることから積極的に活用し、会場の空気を地域メディエーターが担った

ⅳ)着地点

専門家からの一方通行の問題提起で終わらせない様に、重要な論点を次に繋がるように議論を進め、会場からの意見も踏まえて、課題として会場からの意見を中心に集約した事項を提示することを目指した。

ⅴ)利益相反情報と主催団体

利益相反情報は告知案内サイトで告知した。
放射線のリスクの評価の議論は社会への影響から敬遠されがちである。このため地域メディエーターが所属している一般社団法人 日本サイエンスコミュニケーション協会が、これこそコミュニケーションの問題として捉えて頂き主催団体を引き受けて下さった。

ⅵ)タイトル

第2回地域シンポジウム(福島県伊達市霊山町から)
「出荷制限値100Bq/kgは厳守しつつ、地元民の目安としての摂取制限値の検討へ」
主催団体 日本サイエンスコミュニケーション協会
▼ 写真6・シンポジウムの様子

7.行政は規制をどのように考えていたのか

運営事務局よりこのシンポジウムの司会進行は地域メディエーターが担うことが説明され、司会者の開会宣言に続き、シンポジウムの位置付けと今日のシンポジウム開催に至るまでの経緯が説明された。まず、前述したこのシンポジウムに至る背景を説明され、その中で、「出荷制限値100Bq/kgは厳守しつつ、地元民の目安としての摂取制限値の検討(おとな1,000Bq/kg、子ども100Bq/kgの提案)」について、福島県職員やJA関係者からの事前質問の回答を紹介した。
福島県生活環境課、林業振興課、自然保護課からは、以下となった。(これらの回答は、回答者個人の意見かつ摂取制限の指示を守る事をお願いするという前提であり県やJAとしての正式な見解表明ではない。)
  • ・摂取制限値はあっても良いと思える
    (過剰に恐れすぎないように・無頓着になって食べ過ぎないように)
  • ・自己責任で食べているので実態とあっていないのは確か。
  • ・基準値ではなく、自主的に測って食べることを進めるためにも目安が良い。
福島県食品衛生課
  • ・出荷制限値に沿うべきで、摂取制限値は必要ない
JA伊達みらい
出荷制限値は厳重に守られているので、あえて摂取制限値を設けることに疑問がある
これらに対して司会者より、関係機関の中でも摂取制限値の提案に対する考え方が2分していることが理解できるだろうという解説があった。

8.損失余命とは何か

次いで、福井県立大の岡敏弘氏から、損失余命についての解説が示された。同氏は、放射線のリスクは、これ以下なら安全(ここではリスクがないと考えられることであり、本来の定義とは使い方が異なる)という値が証明されていない。よって、どれだけ小さな放射線を浴びても何らかの危険があると考えて行動することが合理的である。
ところが、危なさには度合があるのでこれを考えて行動しないといけない。あまりにも小さなリスクを避けるために別の大きなリスクを引き受けることは合理的ではない。そこで、このリスクの比較が必要となり、その大きさを示すものが損失余命であり、異種の健康リスクの相互比較が可能になる指標であるとした。
具体的な解説として各年齢の損失余命が表に示され、実際例として、1kgあたり2,400Bq(出荷制限値の24倍)のイノハナ10gと5合のお米を使ってイノハナご飯を作って、お茶碗1杯食べた場合、損失余命は、7秒となる。これがどの程度のリスクがあるかを知るためには、他の食品と比較することが役に立ち(本来、リスク比較は慎重に提示する必要があるが時間の制約があった)、例えば、発癌性物質であるヒ素を含むヒジキ10gを含むご飯1合は、7~8分の損失余命となる。また、損失余命は食品に限らず他のリスクとの比較も可能で、自動車を10㎞運転するリスクを21秒とした。このような事実を考えて行動することが合理的となると話された。
ドブジンスキ氏から放射線の専門家としての意見は、放射線生物学の知見から考えると低線量被ばくの危険性はないと言う個人の強い信念を示しつつ、低線量被ばくのリスクの理解が学術的に難しく、その前段としてかつ科学的ではないが(低線量でのリスクを集団で定量的に考えるのは不確かさが大きすぎるとして)心理学的な手段として、他のリスクとの比較も容易で分かり易い損失余命という考え方に理解を示した。
会場からも、出荷制限値は1kgあたりの数値であり、その食品を常に1kgを食べたりはしない、さらに損失余命は専門的な知識がなくてもとても分かり易いという意見があった。ここで、司会者から会場内に損失余命の考え方が理解できたかという赤青カードで答えを求める質問が出され、2名の赤以外は、ほぼ全員青を挙げの会場内の意思が共有されたものの、赤カードを上げた2名の方から、損失余命の定義が分からない、低線量被ばくのリスク評価に自己修復機能を踏まえていない生物学的理解が乏しいリスク評価を採用した損失余命は理解できないとの意見が出された。

9.住民の食べ物への考え方

次に、川俣町、川内村、霊山町の3名の方から発言があった。川俣町の方は、震災直後の生々しい記憶や測定所へ野生のキノコを測ってもらったとき出荷制限値を超えたものは没収されてしまったことが多々あったこと、行政の過剰な放射能防護への矛盾への怒りが示され、山菜やキノコなどの地物はコミュニケーションのツールであり、お金のやりとりのない物については、数値化しないで制限を出来るだけ無くして欲しい、自由にして欲しいとの発言があった。
川内村の方からは、川魚はえらや内臓を外すと数値が極端に下がることから食べ方の工夫ができる。山菜やキノコなどの里山資源を線量で管理をするという切り口は、食文化をずたずたに切り裂き、地域にストレスを与えている。食べる食べないという安全性と生き甲斐や楽しみという地域の資源を分けて考えるべき。損失余命という考え方は専門家のご意見はいろいろあると思うが、このような軸があることで地域が蘇ってくることを専門家のみなさんできちんと考えて欲しいとの発言があった。
霊山町の方からは、生活する上で、放射能だけがリスクではない、さらに自然放射線や医療被ばくによる線量と比較すると、この地域で暮らす上での被ばく量は極わずかであるという意見があった。
これら会場の意見を受けて、越智医師より医師と公衆衛生の違いの説明があった。医師は、病気を治すが公衆衛生は健康を守るものと言う定義の説明をし、放射線のリスクを議論するときに病気にならないことばかりを議論してしまい、健康を守る議論を完全に無視していると指摘した。
また、損失余命に関して、この名称はマイナスイメージなので良くないのではないか。都会の生活より、中山間地域が獲得余命の要素がたくさんあり、それを加えた計算も必要でないかとした。次に、放射線のリスクを避ける事例として、外に出ない、魚を食べない、野菜を食べない、キノコを食べないことを挙げ、相馬市の仮設住宅と玉野地区の比較を説明した。肥満、高血圧、糖尿病の率が仮設住宅の方が高い事を示し、原因を食生活と運動不足とした。
さらに、肥満や運動不足はガンのリスクも上がることにも言及し、最も心配する点は骨であると指摘し、骨を作る三大要因である、食べもの、運動、日光を挙げ、キノコ中のビタミンD、魚のカルシウム、野菜中のビタミンKを挙げ、これらが不足すると骨そしょう症への影響、つまり放射線による発がんリスク以上に、転倒による死亡リスクが上がると指摘した。放射能を避けても安全な条件として、食生活を変えない、運動量を変えない、飲酒・喫煙量を変えない(増やさない)ことが重要で、これらが変わるようであれば、むしろ「低線量の放射線を避けすぎると健康に悪い」可能性があると指摘した。最後に、都会と中山間地域の大気汚染の差を示し「私たちはリスクを避けるのではなく選ぶ時代である」と結論付けた。

10.食品による健康被害の心配はない

次に、司会者から大人が放射線のリスクを理解すると子どもへのリスクが蔑ろになるのが心配であるとの説明があり、子どものリスクをどう考えれば良いのかを白血病や小児がんを専門とする小児科医の浦島医師のビデオメッセージの用意があることを示した。
浦島医師は、まずチェルノブイリ原発事故の事例を紹介した。事故後、わずかに甲状腺がんは増えたものの、ガンになった子どもたちは20年以上経っても99.99%甲状腺がんで亡くなった人はいない事、甲状腺がんはとても治り易いがんであり、その他のがんについては、白血病も増えていないと指摘した。甲状腺がんは放射性ヨウ素が原因であり、今問題となっているのは放射性セシウムなので甲状腺がんの心配はいらないとした。
そして、子どもと大人の放射線リスクを比較する場合、単純に大きさで比較は出来ない事に言及し、子どもの方がリスクが高い事を示した。結果、米国大統領の言葉を引用しつつ、Codexの世界基準値(1,000Bq/kg)10分の1(100Bq/kg)を子どもの摂取の目安とするべきで安全も確保でるだろうと結論付けた。さらに、家の中で引きこもって食べたいものを食べていないでストレスを抱える事は、情緒的な発達に影響があるとした。最後に、みなさんへのお願いとして、一家団欒で笑い声がある食卓で同じ食事して欲しいと付け加えた。
次に、会場へ赤青カードで3つの質問が示された。
1.地元の特産品を食べていますか。
2.(リスクがあるとしても)地元の特産品を食べたいですか。
3.地元の特産品を測って食べていますか。
1と2は青が多数であったが赤を示した方もおられた。青と赤の両方を示した方もおられた。3は8割が青となり、会場からは何も気にしないで好きに食べていると言う意見が出た。
この会場の意思を受けて、博多歯科医師より地元を支える医療従事者としての発言があった。福島の農家は真面目で勤勉であるため、限りなく0ベクレルに近づけるような作物を作ろうと努力している。また、独自にアンケートを取り、田村市民は安心して山菜なども汚染が低レベルであることを確認した後は測定もほとんどしていないで食べていると指摘。さらに、損失余命のようなマイナスではなく加算余命などの言葉にして常に笑うことが大切でポジティブに見て行くべきだとした。
また、東電福島第一原発事故直後、横浜に4日間ほど自主避難されたことに触れ、医療従事者として恥ずかしいことをしてしまったと吐露され、帰って来てからは地域のために何ができるのか、死ぬ覚悟でこの地に住むことを決意したと話された。最も言いたい事として、近隣の存在が心を安定させストレスを軽減してくれることを実感し、コミュニティの重要さを思い知らされたと話された。
博多歯科医師のお話が終わると会場からは温かみのある拍手が起こり、被災地における医師や専門家はどうあるべきかという次のシンポジウムに繋がるご意見ではないかと司会者から発言があった。
以上の発言から、司会者は、放射線から自分たちを守ると言う立ち位置を発展させたものとして、自分たちの生活や人生を取り戻すべきではないかという提案が登壇者から会場へ投げかけられ、会場からは以前の生活を取り戻すべきだというキャッチボールがあったというまとめの発言があった。
次に、司会者よりCodex(世界保健機関(WHO)による基準)などの世界の基準値が示され、摂取制限値の議論をするにあたり、子どもの健康を一番に考える母親の気持ちも大切にするべきだという考えをどうすべきだろうと会場に問いかけつつ「目安としての摂取制限値には安全を確保して、安全に食べられるメリットがあると思いますか?」という質問が出された。

11.地域へのさまざまな波紋をどうとらえるか

会場からは、摂取制限値があっても結局は受け入れる人と受け入れられない人はそのままではないか。摂取制限値を決めてもそれが独り歩きするのではないか。安全安心を確保するならば福島県だけが測定せず全国でも測定すべきで、全国で測定するなら摂取制限があっても良い。摂取制限値があれば、周りの雰囲気で食べられなかった人が食べられる切っ掛けになるのではないか。というご意見があった。
次いで、「食卓に並ぶことで子供が食べてしまう?」の質問に対し、いわき市から参加された情報処理の専門家で東電福島第一原発事故以降、測定を正しく丁寧に続ける事で地元のお母さんたちを支えている方からのご意見は、売っている食品も測定して放射性セシウムが検出しないと確認できて安心を得ている。
まだまだ恐怖心が消えていない。γ線だけでなくβ線も測定するべきだと言う意見もある以上、摂取制限値の目安としての1,000Bq/kgは受け入れる事は困難だと思うと示され、むしろ、1,000Bq/kgと言う濃度ではなく、総量の提案は出来ないのかとのご質問が登壇者へ出され、「おとな1,000Bq/kg、子ども100Bq/kgで良いのか?」の議論へ移った。
この質問にはドブジンスキ氏より、生物学的に総量での管理は、実際的はないとの見解が示され、越智医師より補足説明として、例え話として血液を3リットルを一度に抜くのと少量ずつ抜くときの人体への影響を考えるとやはり総量での管理は無理があるだろうと示された。この示唆に対し、会場から高濃度の汚染による被ばくが想定できない現状があるのだから、WBC(ホールボディーカウンター)を活用する意味でも、きちんと測定して管理すれば総量規制も可能ではないかとの提案が出された。これに赤青カードで確認を取ると8割が青カードを示す中、赤カードを示した方より、一年に数度しか食べないものは自己責任で食べて良いと思う。けれども、おとなが1,000Bq/kgで子どもが100Bq/kgと言う摂取制限数値を導入するという飛躍することに判断はできないというご発言があった。また、他の方より、そもそも子どもは山菜などを好んで食べないので、一律に決めないで、流通しているものと野生のものは分けて考えるべきだろうとのご発言があった。
司会者より、現在の摂取制限はイノシシやキノコの対象市町村を見ると汚染レベルとは全く整合性はなく、現状が考慮されないまま制限されている※7との推察が述べられた。
(注・原子力災害対策特別措置法に基づく食品に関する出荷制限等:平成27年2月20日現在)
原子力災害対策特別措置法に基づく食品に関する出荷制限等
食品中の放射性物質への対応 - 厚生労働省
この摂取制限を取り下げてもらい、自己責任としてWBCを活用して自己管理すべきかという司会者から会場への問いには、青カードだけが確認された。(全員が挙げてはいない)
次いで、「この基準による補償への影響はどうか。周囲に悪影響を与えたら申し訳ない」の問いがあった。出荷制限の農作物は、作付出来ないので補償を受けているし、東電福島第一事故前の価格で売れないものは風評被害として補償を受けているのでイニハナご飯を食べたからと言って補償への影響はない。
考え過ぎ、むしろイノシシは増え過ぎているのだから食べた方が良いという意見も出された。これに対して、司会者から、捕獲したイノシシが焼却処分にされていることに、ハンターのみなさんから食べて供養するというマタギの精神に反する行為だと言う意見があった。
シンポジウムの最後にこれまでの議論を踏まえて、司会者から「摂取制限を取り下げてもらうことを提案する(食品安全委員会に提出)」について、赤青カードで意見を求めたところ、青だけが挙がりこれを着地点とした。(会場全員が青カードを挙げてはいない)
結論
出荷制限値は厳守する前提で、「摂取制限を取り下げてもらうこと(制限解除)を提案する(食品安全委員会に提出)」を会場に集まったみなさんの総意とした。

12.地域シンポジウムを終えて

▼ 地域シンポジウムで使用されたスライド
交通の便の悪いところで開催ではあったが、写真1を見ても、40名以上の参加者があり伊達市以外にも福島県各地から参加して頂けた。また、大手新聞社3社(日経・毎日・朝日)、地元新聞社2社(福島民友、福島民報)、著名雑誌社、地元ケーブルテレビ局1社、ネット動画配信、とメディア関係者にも参加いただいた。翌日には地元新聞社が朝刊に大きな記事として取り上げて貰い、多くの福島県民へ情報提供を実現できた。
また、これまでの多くのシンポジウムに見られるようなパネリストが一方的に情報発信をする形や会場から罵声が飛ぶような雰囲気とはならずに、会場に集まった全員が赤青カードを使って議論に参加し活気あるシンポジウムが出来た。
特質すべきは、登壇者からの情報提供の時間より傍聴席とパネリストの議論のキャッチボールの時間が長く行うことが出来た。よって有意義な対話があったと言える。このことは、シンポジウム中に参加者が登壇した専門家の意見を理解できた証拠であり、自分たちの意思を専門家へ伝えることに積極的だったように見受けられた。
このことが今回のシンポジウムの最大の成果と言えるだろう。このようなコンパクトで地道で、さらにローカルな場所での地域シンポジウムの積み重ねが福島県民に復興の意思に繋がるのだろうと考えている。
ただし、途中から赤青カードを挙げない人が出ているのにも関わらず、決を採らざるを得ない状況に追い込まれた司会者は、今後の赤青カードの使い方を含めてシンポジウムの進め方に改善の余地があるように思えた。会場の空気に流されないで違和感を表明できるように配慮することも重要だと考える。それぞれ気遣いつつもコミュニケーションできることを目指したい。
このシンポジウムの開催に当たり、りょうぜん里山がっこうの高野ご夫妻をはじめとするスタッフのみなさんには多大なご協力をいただき感謝いたします。ありがとうございました。その一方でご迷惑・ご心配をかけてしまった方々にお詫び申し上げます。
半谷輝己(はんがい てるみ)BENTON SCHOOL校長、地域メディエーター。福島県双葉町生まれ、現在は田村市に在住。塾経営をしながら、2012年からは伊達市の放射能健康相談員として、 市の学校を中心に220回の講話、130回を超える窓口相談(避難勧奨区域の家庭訪問)を実施。13年度より、福島県内の保育所からの求めに応じて講演を 実施。日本大学生産工学部工業化学科卒、同大学院工学修士。半井紅太郎の筆名で『ベントン先生のチョコボール』(朝日新聞出版)を発表している。